老舗洋菓子店「近江屋洋菓子店」の5代目店主。千代田区で生まれ、幼少期から地域との繋がりの中で育つ。大学卒業後、東京・岡山・スペインをわたり歩き修行を積む。「近江屋洋菓子店」の店主を務めてからは伝統を大切にしながらも「365日食べられるケーキ」をコンセプトに、日常に寄り添う洋菓子を提供している。
千代田区に造詣の深い"ちよだ人"をゲストに迎え、区内のおすすめスポットを伺う「ちよだ人と街歩き」。個性豊かなちよだ人独自の視点から、魅力溢れるお店や施設、景観などを紹介してもらいます。
今回は、淡路町の店を構える老舗洋菓子店「近江屋洋菓子店」の5代目店主、吉田 由史明さんにインタビュー。地域と共に成長してきた吉田さんに、幼い頃の記憶が息づく場所や、地域の人々との繋がりが感じられるスポットを伺いました。
22歳まで店舗の上にある実家で過ごしていました。幼稚園から小学2年生までは千代田区の学校に通っています。実は今の妻も幼稚園で出会った幼馴染。なので、千代田区は本当に馴染み深い街だと思っています。特に九段坂の上と下ではまた違った雰囲気がありますよね。坂の上は日本有数のオフィス街が広がり、下は下町風情が溢れている。そこもまた面白いポイントだと思います。
この辺りを代表する老舗として知られる、蕎麦屋の「やぶそば」「神田まつや」、あんこう料理の「いせ源」、鳥すき焼きの「ぼたん」などは、幼い頃から親交の深いお店です。店主は20歳以上年が離れた先輩から同級生まで、様々な年代の方がいますが、一緒に飲みに行ったりと日頃から親しくさせてもらっていますね。中でも、「神田まつや」の「カレー丼」は、東京を離れた後も帰省の度に通って食べていました。蕎麦屋ならではの和風の出汁で飽きがこない味なんです。
「近江屋洋菓子店」の店主になってからは、そういった近隣の老舗の店主から運営について助言をいただくことも多いです。今でも心に留めている教えは「お客さまを大切にする」ということ。これは父からも言われてきたことですが、特に店を支えていただいている常連のお客さまには特別な想いがあります。中には「父親に連れてこの店を知りました。今日は娘を連れてきています」なんていう、親子に渡ってお世話になっているお常連さんも。ここまでやってこれたことは確実に僕一人の力ではないので感謝は忘れないようにしていますね。
神田まつや 詳しくはこちら
住所 | 東京都千代田区神田須田町1-13 |
TEL | 03-3251-1556 |
営業時間 | 平日 11:00 - 20:30(LO.20:00) 土曜・祝日11:00 -19:30(LO.19:00) |
今でこそネットで何でも買えてしまう時代ですが、昔はよく秋葉原にパソコンの周辺機器を買いに行っていました。パソコン周りのことは秋葉原に行けば何でも揃うという時代がありましたよね。
それに学生時代は、軽音楽部で楽器をやっていたので御茶ノ水の楽器街にも行きました。初めて買ったベースも御茶ノ水だったと思います。近隣にそういった特定のジャンルに特化した街があると、何事も挑戦しやすいですよね。そういう意味では千代田区は特殊な街だなと感じます。
神保町も学生時代から通っていた親しみ深い街ですね。大型書店の「三省堂」にもよく行きました。あとは、レトロ喫茶で有名になった「さぼうる」も店内の雰囲気が素敵だなと感じます。行くと、お店の雰囲気はお客さま含め皆でつくるものなんだな、と改めて実感しますね。
神保町はカレー屋も豊富ですよね。個人的には「ボンディ」のカレーが特にお気に入りです。学生時代はスノーボードもやっていたので、スノーボード専門ショップにも足を運んでいました。ちなみに、もう閉店してしまったんですが、高校のときやっていたアルバイトも神保町の「牛角」でした。あの辺はよく自転車でうろうろしていましたね。
さぼうる 詳しくはこちら
住所 | 神田神保町1-11 |
TEL | 03-3291-8404 |
営業時間 | [月~土] 9:30~23:00(L.O.22:30) 日曜定休・祝日不定休 |
洋食が好きなので外食はよくします。最近訪れたのは、洋食とワインを提供する神保町の「関山米穀店」というビストロ。特に「黒トリュフのオムレツ」が美味しかったのを覚えています。それをきっかけに「近江屋洋菓子店」でも、トリュフを使用したチーズケーキを試作しました。結局お店のテイストと合わないかな、と思って販売には至りませんでしたが。「近江屋洋菓子店」は、”年に一度のご馳走”というよりかは、“365日食べられるケーキ”が良いと思ってつくっているので、高価になってしまうと日常使いしづらくなるかな、と考えて。
それ以外で最近訪ねたのは、神保町にあるフレンチビストロの「アリゴ」。料理はもちろん、店内の雰囲気も印象的でしたね。フランス料理って、もともと新鮮な食材が手に入りにくい環境で、料理を美味しく仕上げるためにソースや味付けに工夫を凝らしてきた歴史があるんですよね。だから、いまだに斬新な食材の組み合わせや、創意工夫を施した演出が楽しめる。そこで得た発見をお菓子作りに活かすこともあります。例えば、ブルーベリーとクリームチーズや、栗とカシスの組み合わせなど。あるときは、肉にソースが入ったスポイトが刺さっている料理に影響を受けて、いちごのタルトに練乳が入ったスポイトをさしたケーキを販売したりもしていましたね。
今でこそ増えましたが、千代田区って商業施設が少ないイメージがあって。「ワテラス」が建設されていた時期は東京を離れていたので、帰省して初めて完成した建物を見たときは驚きました(笑)個人商店を営む立場からは、商業施設が地域とどう共存してくれるかが気になるところですが、「ワテラス」はその点で好印象を持っています。
建物と隣接した「淡路公園」で街の人と交流イベントを企画してくれたり、アネックス棟最上階に学生専用マンションを設けたり。学生専用マンションは安価で住める代わりに地域のイベントへの参加が義務付けられているようなんです。昨今、人口減少が進む中で地域イベントの運営に携わる人手も減ってきている。そんな状況下だからこそ、そういった施策は助かります。普通に考えれば富裕層向けに住居を提供した方が絶対儲かるわけですから。利益を追求するだけでなく街に溶け込めるような取り組みをする姿勢は純粋にすごいなと思っていますね。
今後もし店舗を増やすようなことがあれば、「ワテラス」さんのように会社と地域のメリットが共存するような形が理想だと思っています。
神田明神で2年に一度行われる「神田祭」は、子どもの頃よくお神輿を担がせてもらっていました。今は運営側に回っていますが、準備から片付けまでなかなか骨が折れる作業です(笑)ただ、海外の方を含め多くの人が街を訪れてくれる、地域にとって重要な催しだとも感じています。
祭りには"門付け"という文化があって、当日は店からソフトクリームを振る舞うんです。お祭りに来ていただいた方の「楽しみにしてました」という声や、お子さんの食べている姿を直接見ることができて感慨深い気持ちになりますね。普段は接客することは少ないので、こうして直接お客さまと触れ合うと、多くの人に支えられて今があるのだと実感します。「近江屋洋菓子店」は、お客さまはもちろん、親族、スタッフ皆でつくりあげてきた店なんだな、と改めて自覚できますね。